たまプラーザを拠点に働く女性にインタビュー⑬管理栄養士の梅田 やすこさん

たまプラーザ(神奈川県)を拠点に働く女性のインタビュー記事です。

彼女たちが、いろいろな立場や環境のなかで、どのようにしてキャリアを切り開き築いてきたのか、副業や複業、起業を考えている人、進路に悩む学生のみなさん、社会との接点を持ちたいと考えている人、すべての“働く人”のヒントになることを願っています。

プロフィール

管理栄養士 梅田やすこさん
アスむすび あすむすび
Instagram

埼玉大学 教育学部卒業。卒業後、幼稚園教師として3年勤務
服部栄養専門学校卒業
東京家政大学家政学部卒業。卒業後、大学病院に管理栄養士として勤務

出産を機にフリーランスとして独立。専門学校講師、保育園給食管理、特定保健指導、クリニック勤務などを経験し、現在は、アスリートの栄養指導、弁当・おむすび製造販売、透析・糖尿病患者の料理代行、各種講演、食品メーカーのサポート、コラム執筆、花嫁様向けお料理教室開催など、食を通して健康をサポート。

横浜市在住。二児(8歳、5歳)の母。

<技能・資格>

管理栄養士調理師、野菜ソムリエ、ヘルスケアプランナー、小学校教諭、幼稚園教諭、空手師範など

インタビュー

藤戸 本日はよろしくお願いします。 梅田さんはこのあたり(たまプラーザ)のご出身ですか?

梅田さん 出身は静岡県伊東市です。高校までは伊東の実家に、大学の進学で埼玉県に引っ越しました。

藤戸 そうでしたか。ご縁があって横浜市に住むことになったのですね。

梅田さん 出産を機に引っ越しました。

藤戸 大学では何を専攻されていたのですか?

梅田さん 幼児教育です。きっかけは空手で、小学校1年から始めて大学まで続けてきました。通っていた道場には小さな子どもたちもたくさんいて、子供たちと本気でぶつかり合って一緒に切磋琢磨し、教えるだけでなく、学ぶことも勇気をもらうこともたくさんありました。高校で進路を考えた際、その経験から、子どもたちとの生活や心の育ち、特に小さな子どもたちに興味を持っていたので、幼稚園の先生になろうと思いました。

藤戸 教育実習では幼稚園の先生を体験したと思うのですが、やってみていかがでしたか?

梅田さん そうですね。1人で30人以上の子どもたちを見守る難しさを感じることもありましたが、小学校と幼稚園の両方で実習して、やっぱり遊びを通して成長していく幼稚園で子どもたちにかかわりたいと思うようになりました。そして、大学卒業後は実家に戻って幼稚園の先生に。

藤戸 実家に戻られたのは理由があったのですか?

梅田さん 伊豆が大好きだったことと、子どもたちの実態を見たかったことと、実家に帰って両親と暮らし、料理を学びたかったこと、貯金が理由でした。もともと食に興味があったので、大学の研究論文で 肥満児のことや子どもの栄養について取り組みたいと思ったのですが、当時はまだ食育が認知される前で教育学部の幼児教育の範疇ではないことがわかり、研究に取り組むことができませんでした。

藤戸 そうだったのですね。

梅田さん 別のテーマで研究をしたのですが、それがきっかけで今の道に進むことになりました。

藤戸 それはとても興味深いですね。ぜひそのお話を聞かせてください。

梅田さん はい。「母親にとっての子どもの価値」をテーマに研究に取り組みました。10代から 80代までの お母さんと言われる方々にインタビューや密着取材をいたしました。ある親子の話、お子さんが未熟児で生まれたために保育器で育ち、生後半年してやっと抱っこできたときのこと。そのお子さんは教えられていないにもかかわらず、お母さんのおっぱいからお乳を吸おうとしたんです。そのときの涙が止まらないお母さんと赤ちゃんの様子に、私も感動でいっぱいになりました。

自分も子どもを産んだ時に思ったのですが、 出産後すぐお乳にガブッと、何も教えていないなのに食らいついてエネルギーを得ようとする。そして、お母さんが食べたものがお乳になって出てくる様を考えると、口から物を入れて育つことはカロリー云々ではない、かけがえのないことなのだと痛感し、口からものを得るということ、食育にとても興味を持つようになりました。

藤戸 その経験が今のベースになっているのですね。

その後から、管理栄養士の道に進むことになるまでのお話を聞かせてください?

梅田さん はい。両親が伊豆で旅館を経営しており、大きなまな板の上で、父が魚を捌く姿やお出汁をとる姿、お出汁の香りや、お出汁で作った厚焼き卵、茶碗蒸し。母が作る揚げたてのエビフライや季節の天ぷら、ガス釜で炊く美味しいごはんやたきこみごはん。宴会のお客様ようのおむすび…など、台所という場所が大好きでした。幼い頃は「邪魔だから入るな!」と怒られていましたが、毎日の報告や間食(つまみ食い)はいつもお台所でした。

実家にいた頃、幼稚園の仕事で朝早いときも必ず、今は亡き父が「味噌汁だけは飲んで行け」と言って半熟卵を割り入れたお野菜たっぷりのお味噌汁を作ってくれていました。料理も学びましたが、親の愛情をあらためて感じることができた期間でした。

お母さんのお乳を吸うことも、父のお味噌汁も母のおむすびも、やっぱり料理というものは技術云々という前に愛情、想いが乗るからこそ、エネルギーが生まれて自分の身になっていくのだとあらためて思いました。

藤戸 ご両親の姿勢からも、食べることを通してエネルギーが流れていることに気づかれたのですね。 得がたい時間でしたね。

梅田さん そうですね。両親の元で過ごせてとても良かったです。実家での経験もあって、あらためて食のことを学びたいという思いが強くなりました。幼稚園の先生を退職し、料亭の仕事をしながら調理の専門学校で1年間勉強しました。

藤戸 料亭では何をしていたのですか?

梅田さん 調理場で修行させてもらいました。専門学校卒業後も1年くらい薬膳料理と料亭を掛け持ちして貯金ができたところで大学の家政学科(栄養士専攻)に入学しました。

藤戸 その行動力は素晴らしいですね。

梅田さん 私が幼稚園の先生をしているときに、「やりたいことがあるのであれば大学に行って勉強したほうがいいんじゃない?」と、当時付き合っていた彼(夫)が背中を押ししてくれたことが大きいですね。

藤戸 そうだったのですね。その後押しは心強いですね。大学ではどんなことを勉強されたのですか?

梅田さん 管理栄養士になるための衛生面や栄養学、調理、解剖生理学や生化学を学んだり、ヒューリップという組織を通して、小さなお子様とお母様たちを対象にした食育体験などもさせていただきました。

藤戸 仕事と勉強と二足のわらじで頑張られたのですね。

卒業後はどのような進路に進まれたのですか?

梅田さん 31歳で卒業して試験合格後、大学病院に就職しました。子供が生まれるまで働いて、出産を機に仕事を辞めて個人事業主として活動を始めました。

藤戸 フリーランスになって何年くらいになるのですか?

梅田さん 8年です。

藤戸 長く活動されているのですね。私が梅田さんを知ったきっかけが「アスむすび あすむすび」というおむすびなのですが、これはどのような活動なのですか?

梅田さん 2021年にまちビズの坂佐井さんからのご紹介で、國學院大學蹴球(サッカー)部の白須監督とご縁ができ、監督からは選手の栄養サポートをして欲しいとお声をかけていただきました。詳しくお話を伺ったところ、学生たちの食べる時間がものすごく不規則だということがわかり、栄養教育をする前に食べることを通して大切なことを自分で気づいてもらい、作り手の私とその場でコミュニケーションを取りながら気軽に相談できる関係を作りたいと思ったことがきっかけで、おむすびを提供することになりました。

藤戸 そうだったのですね。

おむすびにしたのは何かこだわりがあったのですか?

梅田さん 管理栄養士という仕事柄、学生さんたちに強くなってもらいたいので、ついつい栄養に目が行きがちな自分がいます。でも軸には佐藤初女さんの言葉「透明な心で」ということと、親から受けた想い「愛情を込めてむすぶ」ことを大切にしています。「日本のマザー・テレサ」と多くの方から慕われた福祉活動家で教育者の佐藤初女さんという方がいらっしゃいます。初女さんのいらっしゃる弘前の森のイスキアを訪れた際、初女さんのお食事が両親の想いと重なるものがあり、涙が止まりませんでした。

初女さんは、「食は命の移しかえ」と言われており、掌(たなごころ)でやさしくむすぶおむすびは寄り添ってくださるような優しさに満ち溢れていました。

初女さんのように透明な自分ではないので、いろいろと詰めがちになってしまいますが、お召し上がりになる方を思い、精進したいと思います。

藤戸 梅田さんの考えていたことと佐藤さんがおむすびを通してされていたことが同じだったのですね。「アスむすび あすむすび」の由来はどこから来たのですか?

梅田さん 同じというのは恐縮で、本当に目標です。「アスむすび」の由来は、最初はアスリートのアスだったのですが、アスリートだけでなく「明日を結ぶおむすび」だという思いも湧き出てきてこの名前になりました。

最後に、これからの活動について教えてください。

梅田さん 正直なところ、今、5歳8歳の娘たち、主人との生活を大切にしたいという気持ちが根底にはあります。アスリートサポートや長く料理代行でサポートさせていただいている家族のような患者様たち、企業様支援など、長くご縁のある方々がたくさんいるので、大きく広げることはまだ考えられません。しかし、お一人おひとりと家族のように接してきたからこそ、アスむすびでは「明日を結ぶ食事」を提供することをしっかりと持ち続けながら、今後も「アスむすび」の販売を行ってまいりたいと思います。

また、ここのところ、アスむすびの講座依頼をいただく機会も増えておりますので、講座活動や本を出版できればとも思っています。

藤戸 これからの活動がますます楽しみですね。本日はありがとうございました。

梅田さん ありがとうございました。