「たまプラを彩る人々~輝きと情熱のストーリー~」では、地域の魅力を作り上げている人々にスポットを当てま す。昔は何もなかったと言われる「たまプラーザ」ですが、今では季節ごとに楽しめるイベントや多くのお店が並ぶ活気ある街に変わりました。桜フェスティバルや夏祭り、ペアツリーイルミネーションなどの地域のイベントや、魅力的なお店でたまプラーザを盛り上げ、支えているのはどんな思いを持った人たちなのか。その情熱をお届けします。
第2回は、地域に根ざした場所「3丁目カフェ」。その元オーナー 大野承さんと、新オーナーの名島正彦さんにお話を伺いました。大野さんは2025年3月で卒業し、名島さんにバトンを渡しました。その経緯や想いを、ロコっち代表ののぞみんも交えた対談形式で掘り下げます。
目次
プロフィール


名島正彦さん(左):3丁目カフェのCTO。サラリーマン時代に大野さんと共に3丁目カフェを立ち上げた共同出資者。大野さんの後を引き継ぎ、4月から3丁目カフェのオーナーとして活躍しています。
のぞみん:ロコっちの代表。ロコっち オープンオフィスや、たまープラーザみまもりあいプロジェクトのある人ない人カフェ、3丁目バンドライブ、打ち合わせでの利用など、週1ペースで足を運ぶ3丁目カフェのヘビーユーザー。
これから先は私がやらなきゃいけない
3丁目カフェの始まり






ロコ:まずは3丁目カフェを始めた経緯を教えてください。
大野さん:3丁目カフェを始めるきっかけは、当時の横浜市長と東急の野本社長が立ち上げた「次世代郊外街づくり WISE CITY」※1というプロジェクトの一環であった、「たまプラ大学」※2だね。東急と横浜市が講師を招いて世界のまちづくりの成功事例を地域住民が学ぶ勉強会で、27団体が様々な提案をしたんだけど、そこでコミュニティカフェを作りたいという発表をしたのが始まりだよ。


3丁目カフェは「住民創発プロジェクト」に認定された15団体のうちのひとつ













大野さんは自治会長をされていましたよね。たまプラ大学の時はどんな立場だったんですか?
大野さん:ただの一住民だね。美しが丘1・2・3丁目の住民は少なくて全体の5分の1くらいで、あとは青葉区の他の地域の方や近隣のいわゆる地域活動家が多かったかな。













とはいえ、普通の一住民が、そんな真面目にまちづくりについて学ぼうなんて普通思わないですよね。
名島:そうですよね。住んでない僕から見たら、住民の意識がすごく高かったんですよ。自分たちの街を勝手に変えられたくないっていう気概もあったかもしれません。
大野さん:当時の美しが丘には自治会や区役所みたいな縦のつながりしか地域になかったけど、次世代郊外はそうじゃない、よそ者・若者・馬鹿者や横のつながりという新しい切り口で入ってきたんだよ。最初は受け入れる側も大変だったと思うよ。
名島さん:その中で大野さんは、住民の気持ちをプロジェクトサイドに伝える重要な存在でしたよね。
カフェの誕生後の苦労と転機













当初はもっと小規模なカフェの予定だったんですよね?
大野さん:そう。地元のためにコミュニティカフェを作ろうと考えていたんだよ。元々ずっとサラリーマンをしていて、退職後に自治会長が抽選で回ってきちゃったんたんだけど、自治会をやってみて地域でこんなに苦労している人がたくさんいたんだと初めて知ったんだよ。それで、これから先は私がやらなきゃいけないと思ったんだ。それで、美しが丘3丁目の横浜市の未利用地を1坪年間300円くらいで借りてやろうとしたけど、市の認可と地域住民の合意が難しく、10年くらいはかかるとなったんだよ。
名島さん:私は大野さんの夢を叶えたくて、大野さんが悩んでいた時に「昼は無料で開放しても、夜だけの営業でも成り立つ店を作りましょうよ。」と、もう一人の共同出資者と一緒に背中を押したんです。


ここまでの道のりも決して平坦ではありませんでした
大野さん:東急や横浜市、大学教授などの偉い人の前で発表しちゃったし、引っ込みがつかなくなっちゃった。それで手軽な気持ちで商業施設を借りて始めたんだ。家賃は高いし、人件費もかかるし、当時つるんでた3人とも素人だし、「同床異夢」ってわかる?













同じ場所で違う夢を見ていたってことですね。
大野さん:そう、そういうこと。うまくいくわけないよね。シェフが次々辞めたり、同じお客さんに2回冷たいご飯出したり、ハンバーグ50人分を2時間かけて出して怒られたりで、最初の一年は形にもならなくて苦労したよ
カフェからコワーキングスペースやディナーに手を広げたり、1000円のランチでチェーン店と競ったりもしたけど、儲かるわけないじゃない。それで、最終的には軽食とイベントだけに絞ったんだ。













イベント中心が転機だったんですね。
大野さん:例えば400人が500円のコーヒーを飲むと20万円。対して幼稚園の懇親会、40人で5000円のパーティーを3時間やっても20万円。効率が全然違うでしょ。それでイベントに特化したら、2016年頃からなんとか回るようになって、2019年にようやく損益均衡になったんだよ。


幼稚園の懇親会からライブまで たくさんのイベントが開催されています
逆境で感じた地域の人の想い






なのにコロナが来た…それで、2020年にクラウドファンディングを始めたんですね
名島さん:やっと軌道に乗ったと思ったら、失速しましたね。イベント中心だったから。でも、大野さんは最初クラファンに乗り気じゃなかったんですよね。
大野さん:なっしー(名島さん)含め何人かに勧められてね。そうしたら、目標100万円が結局500人から500万円も支援してもらえたんだよ。あとは国や県からの給付金、これが最大で、国庫からも金利安く借りられたし、なんとか乗り切れたね。















もうクラファンを見ても、どれだけ愛されているかわかりますよね。
大野さん:環境に引きずられただけだよ。崇高な理念があったわけでもないし。
名島さん:でも、大野さんの場合はベースがしっかりしますよね。













ほんとそう、大野さんの卒業パーティーのときもすごかったですよね。途中でビールのガスがなくなってビールが出せなくなったんだけど、誰も文句言わないし帰らないんです。お金払ってるからとか、そんなの関係がないんですよね。すごいと思います。やっぱり。
大野さんの卒業と3丁目カフェのこれから


たくさんの方々が 大野さんに感謝の気持ちを伝えに来ました!
大野さん:でも歳とるといろいろと気短になったりして、時々お客さんに怒鳴ることもあるのよ。そうなってくるとおしまいだなと思ったんだよね。そしたら、元々の出資者でもあったなっしーが引き継いでくれるって言うからさ。













でも、大野さん一銭も給料もらってないし、引き継ぐのって結構覚悟がいりますよね。
大野さん:年金で生活できるからね。だから事業というより趣味の一環かもしれないね。
名島:もらわないどころか使っちゃってますからね。
大野さん:これも金の使いようでさ、多分お店やってなかったら、悪い遊びでその分使っちゃってたと思うのよ。
名島さん:ほんと、ここをやっていなかったら、別のお店でお金使っちゃっていたかもしれませんよね。フェラーリ買えるくらいに。













いやいや、良いお金の使い方をしましたね本当に。
大野さん:良いお金の使い方ね。そういうふうにも解釈しているから、今は健全にやってるよ。













名島さん、やっぱりセカンドキャリアを考えたときに、やっぱりここだなって思ったんですか?
名島さん:9周年の時に2年後に閉めるって聞いてたから、酒の勢いで僕がやるって言ったんです。元々僕が焚き付けたのもあるし、地域の人からの残ってほしいっていう熱いものも感じていました。それに、やると決めたら一刻も早くやりたかったんですよ。
実際、平日の昼間に「瀬戸の花嫁」歌ってるおじいちゃんとか、地域の人が楽しんでいる姿を見ているのがほんとに楽しいんですよ。






大野さん、引退後は何を?
大野さん:「横浜あおば脱炭素しみんの会」※3の会長をやってるからそれをね。20年前に太陽光パネルの普及活動とかやってたけど、カフェが忙しくてそれどころじゃなかったんだよ。だけど、これからはそっちに注力できるよ。ほかにも本業の社会福祉協議会や老人会、そのほかにも高齢者の合唱団とか森ノオトとか色々やらなきゃいけないし、ゆっくり温泉にも行きたいね。













やめても忙しいですね。大野さんは今後もお店に顔を出したりされるんですか?
大野さん:俺は陰でナッシーは陽だから、本質的には合わないのよ。それに船頭が二人いると仕事としてはうまくいかないでしょ。これからはお客さんとして来るよ。






3丁目カフェのコンセプト「地域文化の振興と地域住民の交流を目的に場所を提供し、利用者の夢と思いを実現するお手伝いをする空間」は経営が変わっても掲げていきますか?
大野さん:経営理念なんて結局さ、あとからついてくるもんなんだよ。釈迦だってキリストだって、みんな悩んでたわけですから。最初から聖人だったわけじゃないでしょ。とりあえず、煩悩は108つのうち60ぐらいはあるから大丈夫だよ。
名島さん:そうそう(笑)さすがに大野さんみたいな働きはできないから、DXに頼って予約管理をすることにしましたよ。


大野さんに対する敬意が 名島さんのお話の随所に感じられました
名島さん:今後は夜もやりたいですね。昼のコミュニティはもうできているので、これからは夜のコミュニティも作っていきたいです。それが形になったら、お客様同士が夜も昼も関係なく新しい繋がりを作れるような空間を提供したいんですよ。
でも今は18時までの営業でクタクタなんです。だから、一緒に引き継ぐ陶山夫妻や陶山さんの娘さんとともに、夜も開けられるように頑張っていきます。













じゃあ次は、新体制の3丁目カフェについて伺うことになりそうですかね。また、楽しいお話を聞かせてください。






そうですね。今日はありがとうございました。
※1 次世代郊外街づくり WISE CITY→人、暮らし、コミュニティを最重要視した「既存のまち」の持続と再生、まちづくりの施策、事業の推進を通じた人口減少社会、高齢社会における諸分野の課題解決のために、東急と横浜市が協働し立ち上げたプロジェクト。「産・学・官・民」が連携して、良好な住宅地とコミュニティの持続・再生を目指取り組み。
※2 たまプラ大学→「次世代郊外街づくりWISE CITY」における、住民創発プロジェクト─ シビックプライド・プロジェクト ─の一環。2014年に東急と横浜市が連携して講師を招き、地域住民が世界のまちづくりの成功事例を学んだ勉強会。地域の方々が主体となってまちづくり企画を提案・実行した。そこから27の団体が誕生し、まちづくりに携わってきた。
※3 横浜あおば脱炭素しみんの会→「田園都市青葉気候市民会議」に参加した市民のうち、約 30 名が結集し2024年7月に発足した。太陽光パネルの設置の加速、住宅の断熱化の促進、電気自動車(EV)の導入と充電施設の設置の推進、食と農から脱炭素を考えるー「堆肥菜園花壇クラブ」ーなどを提言し、脱炭素あおばの実現に向けた呼びかけや活動を行なっている。
店舗情報
3丁目カフェ
公式HP
住所:〒225-0002
神奈川県横浜市青葉区美しが丘1丁目10−1
TEL:045-516-8037
営業時間:10:00~18:00
定休日:月曜日、土曜日、日曜日