私のジモト たまプラーザ⑤田園都市線の線路

線路で釣りをする

私は小学生のとき以来、たまにこんな夢を見ます。

連日続く雨。一歩外に出るだけで服はびしょ濡れ、細心の注意を払ったとしても靴下に水が浸入してくる、清々しいほどの土砂降りが数日間続いている。

学校に行くのも憂鬱、建物の中に入れば皆の身体から滴る水滴のせいで廊下は濡れ、上履きのグリップが摩擦音を立て、教室の空気は不快な湿気に満ちていた。

授業が終わっても外に遊びに行けない、家でおとなしくクリア済みのポケモンでもやるしかない。放課後に対して何の希望もなかった。そうこうしているうちに夜が来て、特段見たいわけでもないテレビ番組を見て、気づけば子供はもう寝る時間。「なんだかな」としか言いようのない1日の終わり。

朝起きると、ベッドに突き刺す陽の光で目を覚ます。なんだ、今日は晴れか。何の根拠もないが、少しは面白い1日になりそうだ。

前日までの雨を含んだ木々がぽたぽたと水滴を垂らす中、所々にできた小さな水たまりに気を付けながらたまプラーザ駅へと向かう。

時々電線から滴り落ちてくる水滴がとても煩わしい。街中にある、水滴のトラップに気を取られている中、ふと田園都市線の線路を見ると、そこには線路からちょうど60センチくらいの高さまで青みがかった透明な色の水が張っていた。

線路の両脇の斜面に囲まれた地形に水が溜まり、それが手前にあるトンネルの中へと続いており、流れがとても緩やかな川のようになっていた。これでは田園都市線も線路を走ることはできないのだろう。駅には運休の表示。どうやら連日の雨が明けた日は線路に雨水が溜まり、水が引くまで電車は運休になるらしい。

数人が斜面の芝生やコンクリートに腰かけて、線路に向かって釣り糸を垂らしていました。

水面には浮きが静かに立ち並び、魚のあたりを伝えようと緊張感が漂う。その中に名古屋に住む祖母の姿があったので何が釣れるのかワクワクしながら聞いた。

なんにも釣れないよ。

気付いたら私も釣り糸を線路に向かって垂らしていた。

祖母に釣果を聞いて、何か釣れそうなのであれば自分も釣りをしよう、そう思っていたが、結局はそんなの関係なかった。

釣れようが釣れまいが、糸を垂らさなければ気が済まないのである。

しかし、周りに釣りをしている人たち(既に祖母の姿はなく、気づけば学校の友達が釣りをしている)を見ても、釣れておらず、自分にも全く魚の反応がない。

それもそのはず、線路には透き通ったきれいな水が水深60センチほどあり、見るからに魚は泳いでいないのだから釣れるわけはないだろう。それでも私は丁寧にえさを付け替え、あきらめずに釣りを続ける…

ここでいつも夢は終わってしまいます。

たまプラーザで見る、たまプラーザの夢

ごめんなさい、いきなりよくわからない夢の話をしてしまいました。

結論として言いたいのは、私の中で「たまプラーザ」が夢の世界? 無意識の領域? にまで浸透していることを確認し、私の故郷はここなんだなと改めて思った、というそれだけの話です、すみません。

小さいころ、自分には故郷がない、と絶望感を覚えた記憶があります。

小説なのか映画なのかわかりませんが、日本人の「原風景」としての故郷の映像がいつの間にか吹き込まれ、「普通はそういった緑豊かな田園地帯で、よく知った近所同士のつながりのある故郷があるはずなのに、自分が住んでいるたまプラーザは全くそんな感じじゃない、大人になってから戻る場所が自分にはないじゃないか」、と。

釣りに行きたいのにいけないときに、大抵この夢を見ます。最近になると、この夢が始まると夢の中でもやった! と喜んでるくらい、この夢が好きです。

薄々夢だとわかっているけど、すぐに抜け出す(抜け出せる)わけでもない、完全に夢だとわかっているわけでもない、夢の中特有の状態です。

よし、これで釣りができる(どうせ釣れないけど)という喜びと、なんとこの「たまプラーザで」釣りができる、ということに毎度テンションが上がってしまうのです。

登場人物は、必ずしもたまプラーザとリンクしておらず、私にとってその時ホットな? 人たちなのでしょうか。毎回違う人物だから不思議です。

たまプラーザという箱に、その時何らかの関わりのあった人物、そして釣りに行きたいという強烈な願望、これらを入れた私の箱庭が夢として表れているのだと思いました。

自分には故郷がない、となぜか焦っていたときもありましたが、既に箱(場所)は用意されていて、そこに入れるフィギュア(体験)は出来上がっていました。

また、私の箱庭セットは当然ながら時間を経るごとに変化するもので、特にフィギュアのレパートリーは無限に増えていきます。箱庭は自分とリンクして無限の可能性を見せてくれるんだと感じた時、「日本人の原風景」に囚われていたことがなんだか馬鹿らしく思えました。

どうでもいい夢の話で大変恐縮ですが、ひょっとしたことから自分と街のつながりを感じられることは誰にでもあると思います。そんな体験がもしあったら教えてください!