神奈川県立 元石川高等学校で、2017年度に初めて開講された2年生対象の選択授業「アントレプレナーシップ(起業家精神)」。2018年3月14日に行われた生徒たちによる最終報告会を取材しました。
後編では、2つのテーマの発表内容と、1年間この教科に携わった関係者の方々のコメントをご紹介します。
目次
テーマ④社会に貢献するパンを開拓するプロジェクト
神戸屋とともに、社会的テーマを持ったパンを開発し、実際に店頭でトライアル販売も行うプロジェクトです。
提案されたプランは以下の通りです。
・地産地消とフードロスの解消をテーマにしたみかんを丸ごと使ったふわふわなパン
・パンデミックを食い止めることをテーマとしたパン「皮いいゆずんちゃん」
・風邪予防をテーマにしたウサギ型のパン「はちみつ柚子の温ウサギ」
・5つの味を家族みんなで分けられるコミュニケーションパン「5つの幸せパン」
このプロジェクトは5つのプランの中で唯一、実際の販売を伴ったものです。たまプラーザ駅前の神戸屋や、文化祭での試験販売を通して、実際のお客さんの反応を見ながら、どんどんパンが進化していく様子が非常に興味深かったです。
そして、なんとこの中で誕生した「5つの幸せパン」が、2018年3月24日から28日まで、たまプラーザテラス内の神戸屋レザンジュにて297円で限定販売されることになりました!高校生にとっては自信にもなる素晴らしい機会ですね。ぜひ、興味ある方は食べてみてください!
テーマ⑤たまプラーザを10年後も住み続けたい街に!
青葉区やたまプラーザの商店街の方々の協力を得ながら、たまプラーザが10年後も魅力的な街であり続けるための施策を提案するプロジェクトです。
提案されたプランは以下の通りです。
・シティプロモーションビデオを作り、街の魅力をSNSや動画サイトで拡散する。
・桜を守るために、根っこが踏まれないよう、小さな橋を架ける
・荏子田の5つの公園を安全で魅力的にするために、竹のてすりをつけたり、照明で薔薇をライトアップしたりする。
このプロジェクトは、最も求められる成果がわかりづらく、課題発見が困難なテーマだったのではないかと思います。その中でそれぞれのチームが、別々の観点で課題を見つけ、提案につなげられたのは非常に糧になったのではないかと思います。いちたまプラーザ住民としては、今後も高校生たちに主体的に街づくりに関わってほしいな、と思います。
電通 こんなのどうだろう研究所からのメッセージ
報告会の終わりには、1年間を通じて高校生たちをサポートした電通研究所 アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所の森口哲平さんが高校生たちにメッセージを送りました。
森口さんはこの授業を「社会人になるための助走期間」と表現。学生の間は、勝負時やゴールが事受験や就職試験とある程度決まっているけれども、社会人は勝負のタイミングは人ぞれぞれで、いつ勝負時が来るのか、実はもうあったのか、これからあるのかも明確にはわからない。人それぞれ勝負所が違う中で、いざという時に支えとなるのは多くの失敗と少しの成功。若い間に「めちゃめちゃけなされて怒られた経験」をすることは、将来の糧となる。今回悔しかったことを、ぜひいつか自分の人生の中で生かしてほしい、と高校生に激励のメッセージを送りました。
1年間の授業を終えた感想
報告会終了後に、この教科を1年間全うした先生方、および関係者の方々にお話を聞くことができましたので、コメントをご紹介します。
<校長 岡部佳文先生>
元石川高校の生徒たちはみんな素直でいい子たちですが、生徒が主体的に何かをする、という力が弱いという課題意識から、今年アントレプレナーシップ科目をスタートしました。教員にとっても初めての取り組みで、「なにも教えることがないのがつらい」という声も多く聞かれました。同時に、教えてもらう教育文化の中で育ってきた生徒も苦しんでいたと思います。
しかし、社会に出ると、いきなり能動的になれ、と言われます。そのギャップをなくさなければなりません。先生以外の大人と接するのも貴重な経験だったでしょうし、生徒たちは今回「もっとこうすればよかった」という思いが強いと思います。それが自分で何かを考えるきっかけになり、大学や社会で生かしていってほしいです。
<教科担当 道野浩一先生>
非常に長い1年間でした。11月の中間発表から、生徒に危機感が出てきましたが、でもどうしていいかわからず、いろいろ言われてやる気がなくなってしまった生徒もいました。そんな時、電通さんが丁寧にフォローしてくださり、全チーム最後までやり切れたと思います。この授業は、ダメだしを大人からどんどんくらういい機会だと思います。今の子たちは打たれ弱いので、この授業を通じて壁を乗り越える力がつけば幸いです。
<電通 飛田智史さん>
「〇〇の紅茶」を提案したチームは、中間発表の時点では思い付きレベルでうまく説明できませんでした。しかし、最終発表では、きちんと大人を説得するロジックを考えていて、
何が面白いのかをちゃんと最終で説明できていたのが非常に印象的でした。それは、いろいろなことに気付けている証で、成長を感じました。
<電通 本田晶大さん>
社会人の間では「ダメ」の一言で済むことが、高校生には30分かけて説明しなければなりません。それは、企業の方にとっても負担だったと思いますが、真摯に学生に対応してくれてとてもありがたかったです。先生をはじめ、これだけサポートしてくれる大人がいる元石川高校は恵まれた環境にあると思います。自分は、偏差値に勝つにはアイディアしかない、と思っています。アイディアを出す力を育てる意味でもこの科目は非常に意義があると思います。
<電通 舘林恵さん>
生徒たちが1年間取り組んできて、それをどこまで実現できるのか、自分たちはこれから真剣に答えを返さなければならないと思っています。グループの中で声の大きい子の方に議論が進みがち、と言う話がありましたが、そうならないようにしよう、という気持ちもあるものの、その一方で実際の社会はそういうものですよね。その中で自分が勝負して生き抜いていくか、を今のうちから経験できたのはよかったのではないかと思います。1年間で味わった悔しさや挫折を将来に役立ててほしいです。
(写真:たまプラ新聞/長坂断)
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